憧憬と執念と欲望と

!未来捏造
!左馬刻の子供が出てくる


 突然、左馬刻が消えた。一郎は死にものぐるいになって探したが、結局見付からなかった。寂雷に聞けば、教えられないと言われたのだ。乱数にその事を告げれば、乱数は瞬きをして、生きてるから良いじゃん、その内ひょっこり出て来るよと笑って言った。MTCのメンバーである、銃兎に聞いても解りませんの一点張りで、左馬刻に関する情報は得られなかった。
 左馬刻がいなくなってから儘数年が経ち、一郎は成人した。一郎は左馬刻を真似て煙草を吸うようになった。けれど、記憶を頼りに様々な煙草を吸ってみてもピンとくるものはない。国内で作られた煙草を吸い付くし、外国の物にまで手を伸ばした。吸い続けていると、何となくだが外国の物だったのかな、と最近思うようになった。
 横浜で物を運んだ仕事の帰りに、どうせだしと近くにあった公園に入った。日曜日に相応しく、多くの子供が遊んでいる。平和だなと思いながら煙草を唇に挟んで、火を点けた。紫煙がくゆり、空へ吸い込まれる。携帯灰皿を出そうとジャケットのポケットに手を入れる。だが、慣れた手触りが無い。何処かに置いてきたのか、と焦りながらもズボンのポケット手を入れる。やはり思った手応えは無い。
 不意に青色の携帯灰皿が視界に入った。誰か親切な人が差し出したのだろうと一郎は受け取り、視線をそちらに向けさせる。

「あ、ありがとうござ、」

 思わず咥えていた煙草を落とした。一郎は食い入るようにその顔を見る。銀の髪、赤い目、白い肌。少し目つきが悪いためにきつい印象を与えさせる相貌。紅玉色の目が細くなり、口元にはいつかのように弧を描く。

「一郎くん、煙草落としたぜ」

 久し振りに見た顔は、存外変わっていなかった。はっきり解る変化と言えば少し髪が伸びたくらいだ。
 ぎこちない動きで一郎は煙草を拾い、差し出された灰皿に入れた。そのまま左馬刻の隣に座る。左馬刻はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。

「何で、こんな所に左馬刻が」
「それはこっちの台詞だ。あとさん付けろや」

 俺は仕事の帰りだよと言えばそうかよと興味なさそうに返事された。中身も特に変わっていない。左馬刻はカバンから煙草を取り出し、吸い始めた。その煙草の銘柄は一郎が二つくらい前に吸っていた物だ。左馬刻が嘗て吸っていた煙草はそれだったのだろうか。

「左馬刻、煙草変えたのか?」
「変えてねぇよ」

 うざったそうに良いながら左馬刻は煙を吐く。そうだったかな、と一郎はなぞり過ぎて風化した記憶を再度なぞる。
 一郎は食い入るように左馬刻を見た。相変わらずアロハシャツを着ていた。以前は短いスカートにピンヒールだったのに、今はスキニーパンツに比較的歩き易そうな低いヒールだ。それでも何だか長閑な公園に全く似つかわしくない。左馬刻がヤクザから足を洗ったのかは、一郎は解らない。そもそも知らない。
 左馬刻が見ている先を見れば、砂場にいる、キャップを被った子だ。目深に被っている所為でよく顔は見えない。子供は嬉しそうに手を振った。左馬刻も手を上げて返事する。穏やかな顔をしていた。そんな顔をするんだと一郎は驚きつつも仲良さそうな子供の存在に驚いた。

「左馬刻の、子供? 産んだのか?」

 ふう、と左馬刻が煙草の煙を吐く。紫煙はゆるりと渦巻いて空気と馴染んで消えていく。煙草はやめないのか、とお節介なことを考えた。

「そ。もうじき三歳になる」

 頭を殴られたような衝撃を覚えた。ああでも、そうだよな、とも思う。胸にあった空気が抜ける。確かな落胆が存在していた。

「結婚、したのか?」
「理鶯と」

 煙草を吸いながら、一郎に左手を差し出す様にして見せた。細い薬指には、シンプルなデザインの指輪がある。一郎は、再度頭を固い物で殴られたような気持ちがした。覚悟はしていたが、衝撃が大きくい所為で舌がもつれて上手く言葉を紡げない。正直に言って左馬刻の旦那がいなくてよかったと心の底から思った。腹がジリジリと熱い。確かな嫉妬心が存在している。
 拳をきつく握り締めた。掌に爪が刺さる。

「……何で」

 一郎の問いに、左馬刻は少し呆けたような顔をした。直ぐに合点が行ったのか、ああ、と呟く。煙草を持った手に顎を乗せ、にたりと小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

「てめぇ以外だったら、誰でも良かったよ」

 何でだよと思いながらも、だろうな、と一郎は思う。あんな、無理矢理体を暴いておいて好かれたいなんて余りにも虫がいい、よすぎる程だ。
 気分を落ち着かせる為に息を吐いた。色々な事を聞きたかった筈なのに、無気力感に襲われる。

「どんな子?」
「父親に似て……甘いヤツだよ、虫唾が走る程に」

 隠さない棘のある言葉に、一郎は憤りと戸惑いを感じた。理鶯と喧嘩でもしたのか、と考えに至る。何も言えないで、一郎は砂で遊んでいる子供をぼんやりと見た。活発な子供でもあるらしい。確かに左馬刻と理鶯が親ならば、そうかもしれないと無理矢理納得させる為の言葉を生む。
 風が強く吹いた。左馬刻と一郎の頬を撫でた。左馬刻の柔らかそうな髪が風に乗る。左馬刻の子供のキャップを攫う。キャップは砂場から少し離れた地面に落ちた。一郎は目を思わず見開く。
 世界から音が消えた。耳鳴りが聞こえる。耳の側にある血管がごうごうと音を轟かせている。いや、まさか、二年、三年程前、なら、どうして、と喉は言葉の渋滞を起こす。

「なぁ、左馬刻っ、あの子供の父親って、」

 直後、煙草の煙が一郎の顔面を覆った。一郎は何度も咳き込む。喧騒が返ってきた。左馬刻が煙草を携帯灰皿に入れた。
 子供が服や手に付いた砂を払わずに、よちよちと帽子を追いかけている。小さな掌で大事そうに帽子を拾って左馬刻を見た。左馬刻がしゃがみ込み、腕を広げる。子供が幸福そうに笑って、母親に駆け寄って抱き着いた。左馬刻が子供を抱き上げ、ぎゅっと抱き締めた。一郎は、ただ、その様子を見守るしか出来ない。背中に刃物を押し当てられたような感情を覚えた。指先一つ動かせない。
 左馬刻に抱き上げられた子は懐っこいらしい。母親に抱き着きながらも初対面である筈の一郎を見てにこりと微笑んだ。夜色の髪が風に揺れ、自分と同じ目の色を持った子供が一郎を見ている。

「はは、何だよその間抜けな面は!」

 左馬刻が何処か嘲るように笑う。子供はご機嫌なのかへらへらと笑っている。
 一郎は、ただただ立ち尽くすことしか出来なかった。

2018/12/13

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