ミニチュア・ガーデン06

 十四が目を覚ましたとき、酷くスッキリとしていた。窓の外を見ると太陽の光が差し込んでいる。湿った布団から起き上がり、手を伸ばして障子を僅かに開いた。太陽は天辺近くにまで上がっている。十四は眩しさに目を細め、障子を閉めた。障子で和らいだ光が部屋を照らしている。ここ数日間、どうしてあんなに泣き暮れていたのか解らない。
そう思えるほどには十四の中にいた鉛はすっかりいなくなっていた。
 布団に戻ると獄はあらゆる体液に塗れた儘ぐったりとしていた。付着していた体液は一部乾いており、凄惨を極めている。精液の青臭いにおいに、汗のしょっぱいにおいに、尿の刺激的なにおいに満ちている。自分がしたんだ、獄さんは逃げなかったんだ、受け容れてくれたんだ、と思うときゅん、と胸が甘く締め付けられる。世界の端が煌めいている。嬉しさで口角が自然と上がる。笑みが零れるのはいつ以来だったか。

「おう、起きたか」

 からりとした声が響く。十四はそちらを見ると空却が土鍋と小さな壺、それからお茶の入った水差しを持って入ってくるところだった。行儀悪くも足で襖を閉めている。十四はゆっくりと瞬きをする。ああ、そういえばと昨日の事を思い出した。辺りを見ればぐしゃぐしゃの服が散らばっている。空却がほれ、と何かを投げた。咄嗟に受け止めると、先日よりも綺麗になり、手触りが良くなったアマンダだ。洗って干してくれたのだろう。心なしかアマンダも嬉しそうな顔をしている。良かったね、と話しかけるとアマンダは笑った。
 風呂に入って来いと空却に言われ、十四は嫌そうな顔をする。確かにあらゆる体液で肌がぺたぺたとする。確かに風呂に入ってさっぱりとしたい。獄さんは、と尋ねるとこれから拙僧とお楽しみとにんまりと笑う。正直凄く嫌だった。嫌だからえぇ、と不満そうな声を少し大袈裟に上げたし、眉を顰めさせた。お前なぁと少しきつく言われ、十四は渋々と立ち上がる。アマンダを抱き上げ、その辺にあった服を適当に掴む。作務衣なら脱衣所に置いてあると声がかかる。獄さんに無理させちゃダメっすよと一言言って部屋を出た。
 十四は、空却が獄に対して抱いている感情が何であるかを何となく気づいていた。そうじゃなかったら良いな、ただの暇つぶしが欲しかったんだなと無駄な事を願いながら風呂に入った。
 風呂を出て先程の部屋に戻る。精液のにおいが濃くなっていた。後ろから犯されている獄を見て、何とも言えない気持ちになる。十四は空却が持ってきていた土鍋を開いた。粥が入っている。二つの器のうち一つを取り、匙で一口程を掬い取る。何となくお腹が空いている。コップにお茶を入れて手を合わせる。匙を口に含ませた。少し冷めた粥はほんのりと塩と出汁の味がする。十四は何度か咀嚼をして呑み込んだ。久し振りに食べ物が喉を通った。十四は匙でぐずぐずの粥を掬い、何度も口に放り込む。小さな壺を開くと独特の匂いを僅かにさせる漬物が現れた。匙で掬って漬物を食べる。ぱり、ぱり、と軽快な音がする。美味しい、と素直に思えた。少し小さい作務衣に袖を通して、十四は少し早い朝食を取っていた。茶を飲む。玄米茶だろうか。特有の香ばしさが鼻腔をくすぐる。程よい苦味が口腔内を洗って食道を下っていった。
 逃げるなと空却が吐きながら獄の身体を捉えるのが見えた。甘やかさが残る悲痛な短い悲鳴が響く。獄の首周りを彩る痣は自分だけがつけたわけじゃないだろう。十四はあまりの面白くなさに頬の内側を噛む。二人の時間を邪魔する権利は持ち合わせていない。別に恋人同士ではないから。
 半分ほど粥を残して十四は二人に近寄った。二人は正常位でまぐわっている。新しく吐き出された精液で肌が濡れている。シーツを握りしめる獄の指を解いていく。涙に濡れた薄い色の眼が十四を見た。血の滲んだ唇が、じゅうしと名前を呼んでくれた。十四が指を絡めさせると獄はぎうと握り締めてくれる。頼りにしてくれている、縋ってくれている。十四は嬉しくて頬を緩めさせる。
 昨夜の甘い熱を思い出して、十四は僅かに頬を赤くさせた。散々体外にも体内にも吐いたのに、また吐いてやりたくなる。溺れさせたくなる。仄暗い感情が僅かに温度をもたせた。十四は獄の頬に触れた。獄が頬を摺り寄せる。空厳寺に住み着いているネコを思い出す。ひとやさん、と紡いだ音は歌のように弾んでいる。じゅうしと呼び返してくれる。ごめんと喘ぎの合間で聞こえる。何がごめんなのか解らなくて、十四は首を傾げさせた。空却が射精をしたらしく、低くくぐもった声を出した。肌を跳ねさせながらも抽挿は辞めない。暫くして空却が長く息を吐く。腰を引くと、ごぽりと音がした。どれほど精液を蓄えたのだろう。十四は目を細めさせる。首まで赤くさせた獄の喉に触れる。形のない首輪は強く吸い付き過ぎたのか、青くなっているのもある。

「獄さん、お仕事辞めたりしませんかねぇ」

 それが正解のように思えた。九割方は本気だった。残り一割は不可能であると諦めている。絶対ねぇわと空却が一蹴する。明日が日曜日で本当に良かった。

2021/03/23

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