箱庭いっぱいの花葬04

 溺れる、と思った。殺される、と危惧した。アルコールでふやけた脳味噌は本能の訴えを大袈裟だと矮小化する。もうどれだけ抱かれたのか解らない。そもそも尻に何かしらを挿れる日が来る事も、男に組み敷かれてどうのこうのされる事も、あるとは想定していなかった。

「お、起きたか」
「大丈夫っすか……?」

 短時間で見慣れた玄関からリビングまでをつなぐ天井をバックに二人の顔が見えた。獄は何度か瞬きをした。涙のせいかはたまた別の要因かで視界が滲んでいる。アルコールに浸かった身体は未だ気怠さを訴えている。頭の動きが鈍く、重い。そんな状態であれよこれよと起こってしまえばもうどうにでもならない。じっとしていれば、犬に噛まれたとでも思えば、と思っていたが事態は悪化する一方だ。
 二人の手が獄の肌を滑る。いつの間にか脱がされたスウェットは力なく倒れている。近くに獄が吐いた痕跡もあった。獄は、気持ちが良いのか気持ちが悪いのかもう何も判別できない。もう寝たい、と声に出すのも億劫だ。何もなかったことにするから、と伝えたいのに指一本も動かせない。喉が震えて鼻から抜けて、媚びたような声が出る。獄は自分の舌を僅かに噛んだ。獄が視線を上げると四つの目が獄を見ていた。さっきまで散々人の身体を好き勝手していたわりに、未だ熱を保っている。解りやすく欲に染まった目だ。十代の頃の自身の性衝動と他人の話を思い出して、少し寒気がした。
 そういう目で見られていることを、獄は何となくそうかと勘付いていた。自分の思い過ぎであれば良いと思っていた。思春期の最中にいる依頼人が勘違いする話なんてよくある話だ。それとなく、寺の跡取りの話や、バンドのファンやバイトで可愛い子はいないのかと聞いたのが悪かったのか。じゃあどうすれば良かったんだ。話したところで双方が納得のいくような結論へ辿り着けるのか。あれやこれやと考えても後悔しても言い訳しても今更もうどうにもならない。
 獄の尻穴から、精液を吐いた空却の陰茎が出て行った。ぬぽ、と間の抜けた音が出ることも、抜けるときの刺激で声が出たことも、獄の気持ちを一層陰鬱とさせる。空却が離れ、温い空気が肌を舐めた。それも束の間で、十四が入れ替わる。

「ひとやさん、」

 嬉しそうに愛しそうに紡がれた名前は、生温かい空気とゆるく混ざり合う。熱と欲を孕んだ目が愛しそうに獄を見る。自分でなければ本当に良かったのにと獄は切り離された脳味噌で頭を抱えた。
 すっかり硬さを取り戻した陰茎が、獄の精液を零している尻穴をつつく。ぬるぬるしてる、と十四が詰まらなさそうな声で言う。そりゃあさっき出したからな、と空却が獄の髪を柔らかく撫でながら突き放すように言った。どっちの精液も腹に入っとるわバカガキ共がと頭の中でだけ叫ぶ。叫んでから酷く後悔した。認識したくなかった現実が鮮やかに躍り出て、手を叩いて笑っている。
 十四が腰を進めると、最初と比べると随分すんなりと挿入るようになってしまった。快楽として拾い上げるようになってしまった。人間の身体の順応能力の高さに少しだけ感心してしまいたくなる。我が事で無ければ本当に良かったのに。可愛がっていたつもりの二人の男の顔なんて、本当に知りたくなかったのに。

「んっ、獄さんのナカ、ほんとうにきもちい……」

 蕩けた声が降って来る。はあはあと息を荒くしながら容赦なく十四は獄を揺さぶっていく。逃げたかったのに、十四が腰をきつく抑えてるせいで動くことも出来ない。突かれる度にばちばちと眼球の奥で白い光が弾ける。十四の陰茎が獄の前立腺を殴り、最奥を再びこじ開ける。知りたくなかった快楽に肌が粟立ち、声が漏れる。もう精液は殆どでなくなってしまっていた。すっかり萎えた陰茎がふるふると揺れているのが無様だ。首を仰け反って悶えていると、十四が首に唇を寄せる。にげないで、と何処か冷たい声がした。ひやりと背筋が一瞬冷たくなるが、与えられる快楽と二日酔いの怠さで何も解らなくなる。

「~~っ、ひぬ"、ぅ"、や、」
「チンコで前立腺ド突かれて死んだ話は聞いたことねェよ」
「ぉ"ッ、――ほ、おォ"……っ! ひっ、ぐ、ゥ"、」

 硬く握りしめていた拳は空却によって解かれる。緩やかに掌を撫でられ、ぞくぞくと背筋が震える。十四が腰を打ち付けるように抽挿を激しくさせた。何処にも逃げられないのに獄の足が快楽から逃れようと宙を蹴る。喉からは凡そ人ではない声が出された。
 真っ白になる世界の中で、一瞬だけ淋しそうな顔をした寂雷が過った。学生の頃の姿だった。
 そういえば、と切り離された世界ではたと気が付く。彼女に、結婚おめでとうと伝えていない。

2021/07/22

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