断ったら飼い殺す01


 都内にあるレストランで、大寿は息を吐いた。書類を整理し、目頭を揉む。チーフの男が、おかえりですかと尋ねた。大寿はそれに肯定した。チーフが『CLOSE』と書かれた札がかけられた扉の鍵をかける。大寿はスマートフォンを取り出す。午前一時を過ぎたことを告げるディスプレイの数字が煌々と輝いている。タクシーを呼んで帰る前に、チーフの男も帰らせる。
 電気も付けていない暗い部屋の中、大寿は一人だけでいた。水槽の中で泳ぐサメも眠っているのか大きな動きはしない。水槽の一番下から上へと小さな泡の粒が登っていく。大寿はそれをぼんやりと眺める。少ししてタクシーが辿り着いた。大寿は店の施錠をきちんとして、タクシーに乗り込む。自宅までの住所を告げた。タクシーは緩やかに走っていく。
 大寿はスマートフォンを立ち上げる。メールボックスと通話履歴を確認する。三ツ谷の連絡が途切れてから数ヶ月経った。東京卍會に所属する男だ。死んだのだろうと大寿は極当たり前の回答に辿り着く。息を吐いた。積み重なる疲労のせいかどうも身体が酷く重たい。
 暫くしてタクシーは自宅にしているマンションの前に泊まった。大寿は誰もいない自室に入る。シャワーを浴びて、寝間着に着替える。明日が休みであるとはいえ、眠らなければならないのにどうも目が冴えている。
――三ツ谷が死んだ。
 その言葉を小さな声で呟く。口腔内から喉奥がざらりとする。本当にと疑わしい気持ちが囁く。信じたくないだけなのか、あの男が簡単に死ぬとは思えないからか、大寿には解らない。スマートフォンでネットニュースを検索する。数ヶ月前に東京卍會の抗争で大きな爆発があり、一般人も巻き込んで死傷者が出たことが綴られている。詳しい情報はそれ以上ない。怪しげな提示版の書き込みを見ても、死んだと考えられている組員に懐かしい名前が書かれているだけだった。けれども状況から考えるに充分であった。少なくても月に一度の頻度で必ず手土産と共に大寿が経営しているレストランに訪れ、言葉を交わしていたあの男は、抗争の日からぱたりと来なくなった。連絡がつかなくなった。死んだのだ。もう、この世に存在しない。愚連隊にいる人など、そんなもんだろう。
 大寿は東京卍會に所属している筈の妹と弟のことを思い浮かべた。携帯電話の番号は変えていない。二人の番号だってそのまま控えている。掛かってきたことも掛けたことも一度もない。掛けた所でどうにもならないのに掛けようとして、結局掛けられなかったことは何度もある。時折三ツ谷から連絡が来ていたのは、二人の近況を教えてもらうためだ。そういう約束だった。だが、その三ツ谷は死んでしまったようで、二人がどうなったのか確認すべき手段が無い。
 大寿は掌で顔を覆わせた。恨み言を言うつもりはない。ただ、途方もない程の疲れで何も考えたくなかった。
 どうか愛しい人達が明日を無事に迎えられますようにといつしか日課となった祈りをする。そうして布団に入り込んだ。

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