断ったら飼い殺す02


 三ツ谷との出会いは最悪に分類されるものだった。第一印象は弟を誑かす男。それがよくもまあ大人になっても目的があるとはいえ不思議と交友が続いていた。
 聖夜決戦と呼ばれたあの日の後、大寿は黒龍の総長を引退し、家を出た。今の新しい家ではなく、父が所有している、昔使っていたらしい家に住むようにした。あれから妹と弟とは接触していない。向こうもきっと望んでいないだろうと思ってのことだった。通学時間は減り、空いた時間が増えた。学業に励みながら、大寿はゆるゆると微睡ながら緩やかに呼吸を繰り返すだけの生活だった。
 そんなときに、インターホンが鳴らされた。家政婦だろうか、と思いながら開ければ、三ツ谷だった。どうしてこんな所に、どうして家を知っているのか、何しに来た等尋ねたいことが大寿の喉で渋滞を起こしている。戸惑う大寿の手を三ツ谷は取った。あれよあれよと電車に乗り、原宿に辿り着いたのだった。
 三ツ谷が手芸店に入っていくのに大寿は付いて行くだけだ。布やビーズ、糸などを選んでいる横顔を大寿は見るしか出来ない。幼い妹がいるのだと三ツ谷が教えてくれた。だからといって自分を連れて手芸店に行きつくのは全く理解が出来なかった。何か目的があるのだろうと思うが、三ツ谷はいつまで経っても切りだそうとはしない。
 買い物も落ち着いたのか、ちょっと休憩しようよと三ツ谷が指さした。大寿がそちらを見るとクレープの店だ。甘い香り鼻腔を擽る。そう言えば、柚葉や八戒に甘い物を買っていたのはいつが最後だったか、と思いかけてやめた。二人はクレープ屋に近付く。大学生くらいの若い女性がいかがですかと笑いかける。三ツ谷が生クリームとアイスが入っているものを二つ注文した。出来上がったそれを渡され、大寿は思わず受け取った。食べずにいると三ツ谷がもしかして、と口を開く。

「大寿くんて、あまりこういうの食べたことない?」
「そうだな」

 クレープやファストフードはもとより同年代の人と食事をすることがあまりなかった。あれから乾や九井は大寿から離れてしまった。九井については学校も一緒ではあるが、別段用事が無ければ話すことは無い。
 三ツ谷がクレープの紙を剥いでいるのを見様見真似をし、口を大きく開いてクレープにかじりつく。香ばしい香りと冷たい甘さが舌を喜ばせる。美味いと思い、もぐもぐと咀嚼する。三ツ谷はそれを見て微笑ましそうに笑った。
 で、と大寿は三ツ谷を見る。

「テメェがわざわざ来るなんて、目的は何だ?」

 三ツ谷がきょとんとした。瞬きを二回ほどして、首を傾げる。何か目的があるんだろと大寿が言う。引退した身であるが黒龍の総長をやっていただけの異次元の暴力と称された力は未だ存在する。それ以外の分野でも、大寿は器用な人間であったために卒なく熟せる。また、大寿は金があった。近付いて来るものはそのうちのいずれかを求めている。

「悪ィ、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、大寿くんと遊びたくて」

 三ツ谷が発した言葉の意味がわからず、今度は大寿がきょとんとする番だった。個人的に仲良くなりたいと三ツ谷が補足したが、ますます大寿は解らない。初対面の印象は最悪だった。聖夜決戦と呼ばれる程の大きなケンカもした。だからこそ仲良くなりたいと言い出す三ツ谷のことが理解できない。生地から漏れ出た生クリームとアイスが融けて混ざった液体が大寿の手を伝ったのにも関わらず、そちらまで意識が向けられない程に混乱していた。

「……大寿くんは知らないと思うけどさ、八戒から話は色々聞いてたんだよね」

 三ツ谷がクレープを平らげ、くしゃりと包装紙を握り潰す。ゴミ箱に向けて放られたそれは、美しい弧を描き、吸い込まれるようにゴミ箱の中に着地した。
 大寿は末っ子の顔を思い浮かべた。どういったことを話しているかまるで知らないが、恐らく家のこと、兄や姉のこと、日常にあった些細なこと、幼い頃にあった思い出など全てを恥ずかしげもなく隅から隅までぶちまけているのだろうと思い至った。大寿はきゅっと眉を顰めさせる。自身すら忘れているような何か末恐ろしいものが飛んできても困るために、八戒から何を聞いたのかも尋ねたくもない。三ツ谷がその顔を見て、小さく笑う。

「だから前に直で話せて実はラッキーって思ってた」

 益々意味が解らない。大寿が三ツ谷と話すに至ったのは八戒を黒龍に渡し、お互い干渉しないという話をするためだった。

「オレは好きだよ、大寿くんのこと」

 爽やかに三ツ谷は笑う。何も理解が出来ない。何もかもが大寿の理解の範疇を超えている。人の思考回路など解ると思ったことは一度もないが一生コイツの思考回路について理解できそうになさそうだなと置いてけぼりの大脳皮質がぼやく。
 ところで、と三ツ谷が大寿の胸元を指で示す。視線を追いかけるとシャツに白いまだら模様が出来ている。大寿は盛大に舌打ちを打つ。ポケットからティッシュを取り出し、汚れを摘まむようにして拭っていく。三ツ谷が何処か嬉しそうな顔をして大寿を見ている。やっぱり持ってるんだと少し弾んだような声が聞こえたが、無視をした。
 食べかけのクレープを食べきり、ゴミ箱にゴミを捨てる。そろそろ帰らないとなと三ツ谷が少しだけ静かな声で言う。帰りにスーパーでも寄るのだろう。駅に向かいながら二人はぽつぽつと言葉を交わす。

「じゃあ、次はマックとかにする?」
「好きにしろ」

 会ってくれるんだと三ツ谷が嬉しそうに笑う。好きにしてくれと言葉にする代わりに溜息を吐いた。そうやって遊んだり食事をすることがあり、終いには大寿は三ツ谷の妹たちとも交流を持つようになったのだった。

about

 非公式二次創作サイト。公式及び関係者様とは一切関係ありません。様々な友情、恋愛の形が許せる方推奨です。
 R-15ですので中学生を含む十五歳以下の方は閲覧をお控えください。前触れも無く悲恋、暴力的表現、流血、性描写、倫理的問題言動、捏造、オリジナル設定、キャラ崩壊等を含みます。コミカライズ等前にプロットを切ったものがあります。ネタバレに関してはほぼ配慮してません。
 当サイトのコンテンツの無断転載、二次配布、オンラインブックマークなどはお控えください。

masterやちよ ,,,
成人済みの基本的に箱推しの文字書き。好きなものを好きなように好きなだけ。chromeとandroidで確認。
何かありましたら気軽にcontactから。お急ぎの場合はSNSからリプでお願いします。

siteサイト名:告別/farewell(お好きなように!)
URL:https://ticktack.moo.jp/

二次創作サイトに限りリンクはご自由に。報告は必須ではありませんがして頂くと喜んで遊びに行きます。

bkmてがWA! / COMPASS LINK / Lony