君の時間を貰える贅沢04

 数ヶ月後、解読が出来たという連絡を受けて武道は普段稀咲がいる本部へと向かった。いつも通り半間は壁際で立って様子を見ているだけだ。目を合うとひらりと手を振られるので、振り返す。稀咲から簡単に説明を受けた。どうやら人形を作るときに、特定のものを入れなければならないこと、その特定のものがよく解らなかったり無いから調達したりしなければならないことを聞かされた。

「解るものについては揃えておいたが……まぁ昔の時代にあったものだから、恐らく今もあるだろう」

 はい、と渡されたメモを見て武道はぎゅっと眉を顰めさせた。自分が昔から親しんでいる言語であるが、何を示しているのか解らない。詩か、と突っ込みたくなるような単語が羅列している。

「何だよ、『太陽の欠片』って……!」
「恐らくその辺りは鉱物だと思う。花垣には来月までにそれを揃えて貰いたい。オレは橘とその間にやらなきゃならない術式がある」
「来月!?」
「人形を作るのに時間がないんだ。マイキーが早く見たいから手伝うとは言っていたが……。柴大寿にも連絡をしている。アイツも知識はあるから手伝って貰った方が良いだろう」

 うそぉ、と武道から笑ってしまいそうなほど震えた声が出る。稀咲ならきっとこれらが何であるか理解出来ているのだろうし、大寿だって解ると思っているのだろう。武道はぎゅっと目を瞑った。息を吸って吐く。自身の両頬を勢いよくベチンと叩いた。ひりひりと両頬が痛みを訴える。ぱちっと目を開くと稀咲が武道を見ている。

「頼んだぞ、ヒーロー」

 稀咲がにっと歯を見せて笑って拳を武道の方へ突き出す。武道も拳を握り、稀咲のそれと軽く触れ合わせた。

「任せろ!」

 そう言って武道は部屋を飛び出した。

「……というわけでマイキーくんと大寿くんは解るけど……」

 あの後武道はマイキーと大寿に連絡をした。そして、武道の広くはない部屋でテーブルを四人で囲んでいる。武道の向かいにはマイキー、左手には大寿、右手には銀髪の左耳にピアスをしている男がいる。どなたデスカ……、と尋ねれば男はにこりと人の良さそうな笑顔を浮かべさせた。今までそうしてきたかのように当たり前の顔をして、ペットボトルの茶を他の三人に渡している。マイキーはどら焼きを食べながら、ああ、と思い出したような声を出した。

「二人初めましてだっけ? 三ツ谷っていうオレのダチ。三ツ谷、タケミっち」
「初めましてタケミっち。マイキーからは話を聞いてる」
「はぁ、どうも……」

 手を差し出されたから、握手だと思い、手を伸ばしかけた。大寿が武道の手を制する。やめとけ、と言われて武道は戸惑いながらも手を引っ込めさせた。三ツ谷が大寿くんは相変わらずだなぁと話している。どうやら知り合いらしいというのは解った。ついでに、大寿が三ツ谷のことを、少なくとも好意的でないことを理解してしまう。

「三ツ谷はダチん中でこういう探し物とかは得意な方なんだ。……ケンチンは契約しちゃったから急に呼び出されるし、一虎は場地もいない、知らねぇヤツばっかだと黙っちまうから」

 ドラケンもうっかり契約することあるんだな、なんてけたけたと二人は和気藹々としている。多分出てきた名前は悪魔の名前なのだろうと武道はぎこちなくなる。もう一度記載するが、武道の左手側には大寿がいるのである。そう、現役のエクソシストである大寿だ。
 取り敢えず、と武道はテーブルの上に稀咲から貰ったメモを出した。二人の悪魔は興味深そうにメモを見る。ぜーんぜん解んねぇなとマイキーが笑う。三ツ谷と大寿は何かを考えているようだった。

「これとかこれとかは解りやすいけど、揃えるのが大変そうだよなぁ」

 これ、と三ツ谷が指したのを見るとオリーブの鉱石と書かれている。大方カンラン石のことだろうなと大寿が話す。そうなの、と武道は二人の話すことを見るしか出来ない。比較的解り易い二人は言うが、武道は全く見当がつかない。オレに出来る事ってありますか、と聞けば三ツ谷が顔を上げて、武道を見る。少し困ったように眉尻を下げさせた。

「うーん……じゃあタケミっち、この辺直ぐ集めたいと思、」
「三ツ谷」

 マイキーの静かな声に三ツ谷は言葉を紡ぐのをやめて両手を胸当たりに掲げる。にっこりとマイキーが笑った。マイキーのダチだから契約するわけねぇじゃん、|エクソシスト《大寿くん》もいるんだし、と苦笑交じりに話している。あれが契約になるのかと遅れて驚愕する。

「花垣、簡単に自分を差し出すな。食らい尽くされるぞ」

 アイツらはすぐに契約させようとすると大寿の言葉にこくりと武道は頷く。もしも、マイキーが止めなければきっと契約していただろうなと顧みた。あまりにも悪魔は自然に契約に持ち込もうとしている。世の中の特殊詐欺とかって……、と考えが脱線しそうになり首を横に振る。

「タケミっち、こういうのは得意なやつに任せようぜ」

 武道が何かを言う前に、マイキーは武道の腕を掴む。マイキーがちょっと休憩してくるわと二人に行って、そのまま窓から一階へと飛び降りた。着地する寸前に一旦ぴたりと空中で留まった。それを理解する前に、武道はどすんと尻餅を着く。突然、過度に驚くことをされると悲鳴を出せないことを武道は知った。心臓がどっどっと脈を打っている。上を見ると大寿がぽかんとした顔で見ている。大丈夫と言う代わりに武道は頷いた。通じたのか大寿は部屋へと戻っていった。

「あ、あの、マイキーくん……」
「よし、タケミっち何処に行く?」

 どこ行くつったって、と武道は情けない程に震えた声を出した。びっくりし過ぎて脚に力が入らない。ちょっと立てない、と素直に言えばマイキーが吹き出した。そんなに、と悪戯っぽい顔で言われる。武道は少し恥ずかしい気持ちになる。やめてくださいよ、飛び降りるの、と小さな声で言うしか出来ない。しょうがねぇなぁとマイキーが武道に肩を貸す。ぱちん、と指を鳴らしたかと思えば部屋に戻ってきていた。おかえり、と三ツ谷が笑う。大寿が驚いた顔をしていた。

「なぁー、この辺のヤツ、すぐに手に入れれねェ?」
「出来ねェことはないけどさぁ、それだったら何でも良い訳じゃないんだぞ?」
「そうなの? 大寿くん、だっけ。大寿くんも同じ?」
「神を下ろす為のものだからな。祝福を受けているものじゃないと駄目だろ」

 ヒナちゃん以外の祝福かぁ、とマイキーが唇を尖らせる。パーちんに聞いてみようよ、と三ツ谷が話している。
 それからこれはオレたちじゃ無理、と三ツ谷が話す。マリアの言祝ぎと書かれている。恐らく人形の材料を揃えた後にシスターから祝詞を貰うのだろうと大寿が説明をする。シスターに祝詞って、と武道はそれ以降の言葉を紡げない。あまり外部の人を入れる訳には行かない。事情を話して解る人であっても、守護神を人に下ろすことに賛同する人は少ないだろう。

「三ツ谷、なんかない? オマエ、女の子詳しいだろ」
「その言い方やめてくれる!?」

 言うほど詳しくもないけどと三ツ谷が慌てたように声を上げた。武道はそうっと横目で大寿を見る。大寿の三ツ谷を見る目がかなり冷たく鋭いものとなっている。

「……あ、柚葉とかどう?」

 柚葉、というのは大寿の妹だ。武道は大寿の視線を見て、冬の軒下に並ぶつららを思い出した。下手したらそれよりも鋭いかもしれない。

「エクソシストだからぴったり、」
「却下だ。出来るだけこんなことに関わらせたくない。それからセクハラだろ」
「あー……そっか、処女じゃないと駄目だもんねぇ。でも柚葉ちゃんは十中八九しょ、あっ、ごめ、う゛ッ、」

 ばしんと小気味いい音がした。次いで三ツ谷が咳き込んでいる音も聞こえる。悪魔って色んな種類がいるんだな、などと武道の脳味噌は逃避している。今のは三ツ谷が悪い、とマイキーが三ツ谷の背中をさすりながら声をかけていた。元凶はマイキーくんでは、と喉まで出かかった言葉を無理矢理飲み下す。

「三ツ谷、なんか適当なシスター引っ掛けてくれねぇ?」
「マイキーの頼みならしょうがないなぁ。大寿くん、貸しひとつな」

 大寿の眉間に皺が寄せられる。どうしてそうなるんだろうと武道は心底不思議と思ったが、突っ込まないことにした。
 揃えられるものについては、ひと月以内に揃えてみせるよとマイキーが言う。目星が幾らか付いているらしい。三ツ谷は一足早く魔界に戻り、大寿はおもちゃ屋に伝えるべきことがあるのでと帰った。マイキーは武道の部屋にあるテレビを点け、たまたま映し出された映画を見ている。武道が産まれて直ぐぐらいに流行った映画だ。修道服に身を包んだシスターたちが高らかに歌っている。それを背景音楽にぼんやりと眺める。

「マイキーくんはどうしてそこまで手伝ってくれるんですか?」

 マイキーはテレビから視線を外し、武道を見る。ぱちりと不思議そうに瞬きをして、首を傾げさせる。

「……人間と守護神がくっつくのって見たくね?」

 人間で言うドラマみたいなものなのかなと武道は思う。そう言えば大分前に悪魔は娯楽として人間を観察することがあるという話を今になって思い出した。そうなんすね、と少し疲れたような声が出る。

「ヒナちゃんを幸せにしなかったらぶっ飛ばす」
「ヒナはオレが絶対幸せにしますよ」

 少しムキになって言えばそっかとマイキーが安心したように笑う。マイキーくんは泊まるんですか、と尋ねればそうしようかなあと床に寝転がる。タオルケットがあったかなと武道は押し入れを開けて覗き込む。

「幸せになれよ、タケミっち」
「勿論、二人で幸せになりますよ」

 引き出しを開けると薄い青色のタオルケットが出てきた。前使い終わったのを洗濯してこのまま置いていたから、まあ大丈夫だろうと引っ張り出す。ふわりと防虫剤の匂いが部屋に漂う。振り返るとマイキーはすやすやと寝息を立てていた。

2023/10/06

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