おいでここまで

 髪が長かった。髪はショートだった。そこまで短く無かった。気の強そうな印象だった。そんな印象はなかった、優しそうだった。寧ろ気弱そうに見えた。黒髪だった。青いメッシュが入っていた。金髪に近い茶髪だった。上背があった。そんなに背は高くなかった。同じくらいだった。
 壱番隊隊長と壱番隊副隊長、肆番隊隊長の顔が解せないと口々に言っている。先程の特徴は各々が話した三ツ谷の彼女のものだ。一週間前にペットショップの近くで見た場地、昨日スーパーで見た千冬、四日程前に場地たちが住んでいる団地に行く途中で見た一虎。三ツ谷の彼女がものの見事に一致しない。まるで別人だ。いや、ここまで来ると別人に違いないのだが。
 こんなコトある? と一虎が嫌悪感を隠さずに顔を歪めさせる。

「でも、どう考えてもルナちゃんやマナちゃんじゃなかったしなぁ……」

 場地は頭上に疑問符を幾つも浮き上がらせている。うーん、と場地と千冬は首を同じ方向に傾げさせる。三ツ谷の妹たちというよりも、数歳年下から数歳年上程度だ。

「スタイル良かったと思うんすけど……胸も、こう、あって」

 そう言いながら千冬はこれくらい、と言う代わりに手振りで表現する。恐らく掌では余るほどのサイズだ。一虎は四日程前の記憶を思い出した。そんなに大きくはなく、寧ろ育てる楽しみすらありそうな大きさだった。

「何、千冬、オマエ胸派?」
「え? 三ツ谷は脚派じゃねーの?」

 一虎の千冬をからかう言葉を拾い、場地は数ヶ月前にした男たちだけの猥談を思い出す。その時は八戒が三ツ谷の彼女は脚が綺麗だと柚葉が言ってた、と話していた。実際に三ツ谷に脚派か聞いたがはぐらかされて教えてもらえなかったと記憶している。
 ちげーっすけど! と千冬が声を荒らげさせる。何でこんな所で派閥を暴露しなきゃならないんすかと早口で続けた。照れるなよと一虎が千冬を嗤っている。解っててやっているのだろう。場地は二人が仲良さそうで良かったなとにこにことしてしまう。
 お、と場地が声をあげた。千冬と一虎がそちらを見ると三ツ谷が歩いている。誰かを探しているのか、きょろきょろとしている。三ツ谷ァ、と場地が呼ぶと振り返り、こちらへと歩いて来る。今日はどうしたと何でもない挨拶のようなものを交わす。

「オマエさぁ彼女いる?」
「えー? フリーだけど。何、紹介してくれんの?」

 オマエは紹介なくても来るんじゃねぇの? と一虎が首をひねる。急に何だよと三ツ谷に言われ、そうそうと一虎が口を開いた。

「オレと場地と千冬が見た三ツ谷のカノジョがさぁ、全然一致しなくて」

 場地が見た彼女と千冬が見た彼女、一虎が見た彼女の特徴を千冬が説明した。ルナちゃんとかじゃねぇよな、と場地が聞けば三ツ谷は困ったように笑っている。日替わりランチかよと一虎が信じられないものを見る目で三ツ谷を見た。うげぇ、と吐くような真似をする。

「えっ……彼女が日替わりランチとかやべぇじゃん」

 若干、もといかなり引きながら場地が思わず言葉にする。一虎の比喩をきちんと理解しているかどうかは解らないが。
 漆番隊隊長とその側近二人が近くを通りかかった。彼女の両脇を歩く乾と九井がゴミでも見るような目で三ツ谷を見ている。恐らく先程の話しを聞いていたのだろう。それに対して大寿は何も変わらない。いつも通りだ。興味がすこぶる無いのかもと千冬は分析する。

「あー、ほら、場地と一虎がそんなこと言うから大寿ちゃんが誤解しちゃったじゃん!」
「えーっ、ごめーん!」

 場地は反射的に謝る。いいよいいよと三ツ谷は軽い口調で言った。三ツ谷は大寿に用事があったのか、大寿へと駆け寄る。探してたのは大寿ちゃんかぁ、と千冬は納得した。乾と九井が間に挟まって会話、というより乾と九井が一方的に三ツ谷を拒絶しているようだが。まあ、彼女遍歴の宜しくない噂のある男を東京卍會にいる数少ない女性に近付けたくないよなと千冬は理解できる。
 ん、と場地ははたりと気が付く。

「よくよく考えたけどよ、さっきの事実だからオレ、謝らなくても良かったよな?」
「そーだよ」

 一虎が間髪を入れずに返事をする。千冬は先程のやりとりを思い出した。誤解しちゃったじゃんと言っていたが、確かにさっきのは現時点においての事実しか言っていない。三ツ谷だって日替わりランチの彼女について否定をしなかった。だから一虎は謝らなかったのだろう。何だよ腹立つー、とそんなに怒っていない口調で場地が唇を尖らせる。

「そうっすよね……」

 千冬はそう呟きながら三ツ谷を見た。三ツ谷は楽しそうに大寿と話している。普段は仲間は勿論家族も大切にしている人だ。そんな人が、どうしてと疑問が浮かび上がる。だがその疑問も、場地から別の話題を振られたことですっかり消え去ってしまった。

2023/10/12

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