おいでここまで03


「場地に言われたんだけどさ、千冬がいつかオレが刺されるんじゃないかって。……アイツら絶対面白がってるよな」
「何ッでそれをオレに言うんだよ……」

 龍宮寺は天井を仰ぎ見る。怒りに任せて大きい声を出したい気持ちを落ち着かせるために盛大な溜息を吐いた。家族連れの多いフードコートの一角でハンバーガーとポテト、ナゲットが乗ったトレイを二人で摘まんでいた。ポテトにナゲットのバーベキューソースを付けて、美味しいと三ツ谷が小さく笑う。大寿ちゃんがこういうの食べたこと無いんだって、と言うのを聞いてああそうと龍宮寺はいかにも興味なさそうに答えた。

「つーことは、オマエまた別れたのかよ」
「そうなんだよねぇ。八戒が『わ! タカちゃんすごーい。これで今月何人目?』って無邪気に聞いて来るから、段々オレってすげぇことしてんのかなって気持ちになる」
「すげぇ悪いことだよ、バカ」

 今回は続いてた方なんだけどなぁ、と三ツ谷は長いポテトを咀嚼しながら、遠い目をする。確かに続いていた方かもと龍宮寺は頷く。ただし三ツ谷にとっては、という言葉が必要な程に一般的にはものすごく短い方に分類されるが。
 三ツ谷の恋愛話の近況や抗争がどうだとか次に殴りにいくとしたらここだとか他愛のないことを話しながら、みるみるうちにトレイの上にあった物を胃袋に収めていく。紙ナプキンで塩や油のついた手を拭っていく。ジュースがほぼなくなり、ずごご、と三ツ谷が音を立てながらジュースを吸う。龍宮寺はゴミを取り敢えず丸めて一つにまとめる。

「好きって絶望だよね」

 ストローから口を離した三ツ谷がそう言った。ストローに噛み跡が残っている。突然言われた言葉に龍宮寺は瞬きをした。

「ナニソレ?」

 聞き覚えのない言葉だ。何かCMやドラマであったのだろうか。龍宮寺はあまり解らない。三ツ谷だってそんなに詳しくはないだろうとも思う。三ツ谷はきゅっと目をきつく瞑って、ぱっと目を開く。

「や、前カノがそう言うフレーズ? 教えてくれてさ。今ふっと思い出した」

 何かの小説にあったらしい。龍宮寺はふぅんと相槌を打った。好きになったら負けということかと中途半端な考えを出して、炭酸ジュースと一緒に飲み下す。油っぽい口の中がさっぱりと洗われた感覚がする。どれくらい前の彼女なんだと思ったが、突っ込まないことにする。

「三ツ谷さ、誰でも良いから付き合うってのを辞めねぇ?」

 コクられても一日二日待ってから断れよと龍宮寺が苦虫を嚙み潰したような顔で告げる。三ツ谷は瞬きをして僅かに首を傾げさせる。別に誰でも良いワケじゃねぇんだけど、と口を開く。

「その時は良いかなって思えるんだよなぁ……でも段々違うなって違和感のが大きくなって」

 だから長続きしないんだよなと三ツ谷が溜息を吐いた。ストローを吸って、ジュースがすっかり無いことに気付いて口を離す。ふぅ、と溜息を吐いた。

「ルナちゃんたちがそう言う男連れて来たらどうすんの?」
「え? そんなの殴る一択じゃね?」

 三ツ谷は爽やかな笑いを浮かべながら即答した。解ってんのにテメェはと龍宮寺は言葉にする代わりに舌打ちを打つ。
 龍宮寺は面倒見がよく、人間関係については比較的聡い男であった。喉の奥で、『オマエ、ほんとは大寿ちゃんが好きなんじゃないの』という言葉がいよいよ暴れ出している。それを無理矢理飲み下した。そんなことを言って、三ツ谷に自身の恋愛感情を自覚させてしまえば面倒なことになる未来しか見えない。ただでさえ三ツ谷は乾、九井から噛みつかれているので、余計にそれが酷くなるだろう。乾と九井は恐らく三ツ谷の感情を知っている。知っているからそういう反応なのだろう。次に龍宮寺は八戒の存在を思い出した。姉である大寿や柚葉のことが大好きで大事にしている末っ子だ。三ツ谷のことも兄貴分として慕っている。だが、黒龍が天竺とともに東京卍會に吸収されたときの、大寿を弐番隊に引き入れようとして駄々をこねていた苦くも酸っぱい記憶が蘇る。また、大寿と三ツ谷が二人だけで出掛けることについて、オレも誘ってよぉと武道に泣きついていた。したがって、三ツ谷が本気で大寿を口説くなんてことになったら十中八九八戒は泣く以上のことをするだろう。

「オマエ、マジで女作るのヤメロ。ペーやんから聞いたけど、部活の副部長もオマエのその悪癖を目の敵的な部分あるんだろ」
「ああ、安田さん……。ああうん柚葉にもすげぇ怒られたしさ」

 何したんだよ、と聞けば、うっかり柚葉の友達に手を出してしまったらしい。三ツ谷自身も気を付けていたがまさか柚葉の友達だとは思っていなかったらしく、その時は大変だったそうだ。まあそうだろうなと龍宮寺は頷く。今はすっぱりと関係が切れているが。

「そりゃあブチ切れるだろ……」

 龍宮寺は三ツ谷がエマとそういうことになったら、と考えると身震いをした。エマが本当に誰かを好きになったら応援するつもりであるが、こんな男を選んでしまったら多分、骨が変形するまで殴ってしまうかもしれない。勿論相手の男の顔の骨である。三ツ谷がもしもその立場だったとしたら、きっと悪いと思っているから抵抗しないかもしれない。いや、まず東京卍會において内輪揉めはご法度だ。そもそも大分前に万次郎がエマとヒナちゃんには絶対近付くなよと三ツ谷に笑顔で言っていたし三ツ谷は義理堅い所もあるため、そういうことは起こらないと断言しても問題ないだろう。

「良いなーって思う女、心当たりねぇの?」

 龍宮寺の質問に三ツ谷は視線を上側にやって、考えるような素振りをする。少しして、いないかなぁと力ない声で呟いた。三ツ谷が誰を思い描いたのか、あるいは思い描きかけたのか龍宮寺は知らない。
 龍宮寺は、三ツ谷が一生その感情に気付かなきゃ良いのにと思った。そうすればそのつかの間は東京卍會は今のまま地続きで進んでいく。その反面、気付いてしまった方が、ずっと良いんじゃないかとさえも思えた。そうすれば少なくとも泣く女の子は減るだろう。その代わり東京卍會の一部の面々たちがどうなるかと考えかけてやめた。いよいよ副総長である龍宮寺自身と総長代理、参謀の三人の胃袋が大荒れに荒れてしまう可能性が高い。ただでさえ破天荒で天上天下唯我独尊を地で突っ走っていく総長に振り回され、その下に付いている個性豊かな隊員たちを何とか統率している。どう転んでも面倒なことにしかならないなと気付いて、龍宮寺は小さく溜息を吐いた。

2023/10/18

about

 非公式二次創作サイト。公式及び関係者様とは一切関係ありません。様々な友情、恋愛の形が許せる方推奨です。
 R-15ですので中学生を含む十五歳以下の方は閲覧をお控えください。前触れも無く悲恋、暴力的表現、流血、性描写、倫理的問題言動、捏造、オリジナル設定、キャラ崩壊等を含みます。コミカライズ等前にプロットを切ったものがあります。ネタバレに関してはほぼ配慮してません。
 当サイトのコンテンツの無断転載、二次配布、オンラインブックマークなどはお控えください。

masterやちよ ,,,
成人済みの基本的に箱推しの文字書き。好きなものを好きなように好きなだけ。chromeとandroidで確認。
何かありましたら気軽にcontactから。お急ぎの場合はSNSからリプでお願いします。

siteサイト名:告別/farewell(お好きなように!)
URL:https://ticktack.moo.jp/

二次創作サイトに限りリンクはご自由に。報告は必須ではありませんがして頂くと喜んで遊びに行きます。

bkmてがWA! / COMPASS LINK / Lony