アンハッピーリフレイン02


 獅音は親を殺した罪で少年院へと送られた。警察たちがどのような判断をしたのか獅音は殆ど解らないが、医者に身体を診られた。年配の医者が、幼い間に乱暴に扱われ酷使されたせいでオメガでありながらもう子を孕めない身体であることを、如何にも残念そうな様子で告げた。獅音はほっとしたような、そんなもんかと思うような呆気なさがあった。
 空っぽの腹の儘で過ごす少年院は獅音にとって夢のような世界だった。規則正しい生活。与えられる栄養のある食事。共同生活故の規律。少年たちの間に存在する暴力で自身を尊重させる規則。アルファもベータも皆同じ建物にいた。やはりと言うべきか獅音自身のようなオメガはいない。
 そのまま幾日が過ぎ、ふと獅音は産むための機能が損なわれたためにヒートが来ないことに気付いた。来ているのかも知れないが以前ほど酷くはない。元々栄養の少ない状態が長かったので、すっかりオメガの特徴がなくなったことにまるでベータにでもなった気持ちだ。
 獅音は小さな窓から外を見た。冬の雲が空を覆い尽くしている。獅音は居ても立っても居られない気持ちだ。全身の血液という血液が走り出し、獅音の身体そのものを何処かへ運ぼうとする。獅音は世界が輝いて見えた。自身の身体を組み敷くものも、舐めしゃぶらせるものもいない。痛いことも怖いことも何もない。世界で一番尊重されている人と錯覚しそうだ。
 そんなときに出逢った、黒川イザナという男は獅音の人生を更に色鮮やかに変えさせた。
 気が付けば灰色の空が見えた。獅音だけでなく、蘭や竜胆、武藤、望月までもが獅音と同じように地面や壁に凭れかかっていた。ああ、と獅音は状況を理解する。立っている男はイザナという名前で最近入ってきた男だ。ちょっとした望月とイザナの間でいざこざが起こり、茶々を入れた蘭と竜胆、止めようとした武藤と竜胆を庇った獅音は巻き込まれた。その結果イザナに過剰なまでに殴られ蹴られた。いざこざの内容は知らないが、イザナにとって許せないことだったのだろう。
 看守にこってりと搾られ、適切な治療を行われる。殴られたときの景色は未だ鮮明に浮かび上がる。恐ろしさはなかった。あまりにも桁違いの強さに見惚れてしまったのだ。それは獅音だけでなく、望月すらもそうだった。
 怪我もある程度癒えてくると、あのいざこざの前と比べてイザナたちと少し親しくなった気がする。イザナはいつも獅音のことを犬と呼んだ。獅音は、元の暮らしよりもずっと良いからそれで良いと思えた。イザナは誰かとつるむこともなく、誰かを子分のように引き連れることもなく、いつも一人でいた。だからこそ獅音だけでなく、武藤も望月も蘭や竜胆すらも惹かれたのだろうと思える。そんなイザナでも面会の時間になると楽しみで仕方ないように落ち着きなくなっていた。ふと獅音がこっそりとイザナの部屋に行くとイザナはベッドの上で手紙を読んでいた。

「悪ィ、大した用事じゃねぇから、」
「別に構わない」

 そう言われると獅音は自室に戻れなくなる。椅子を借りてそれに座った。イザナは手紙を丁寧に畳み、これまた丁寧に箱に入れる。どうやら今まで大切にしまっていた手紙を取り出して読んでいたみたいだった。
 誰から、と獅音は単純な興味から尋ねる。イザナは家族だと答えた。固い蕾が綻ぶようなふわりとした笑顔を浮かべさせる。

「兄貴と弟と妹がいるんだ」

 四人きょうだいなんだ、と獅音の口が勝手に音を生む。そうだとイザナはどこか誇らしげに頷く。優しい顔で家族を語るイザナが、獅音にとってもの凄く眩しいもののように思えた。獅音自身はその光の当たる所にいないのに。

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