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TEMPORARY

一時的な置き場

淋しい宇宙を飼い慣らす

 獄が振り抜いた拳は確かな感触があった。
 頬に受けた強い力により空却の身体はやや後方左側へ倒れ込む。その拍子に近くに獄が積んでいた雑誌の小さな山たちが口々に文句を言いながら倒れた。空却は獄から視線を外さない。空却の足先がフローリング張りの床に触れる。とん、と軽く蹴った直後、獄の薄い色をした目が眼前にあった。空却の掌が確かな意図を持って獄の喉元を押さえる。獄は目を見開いたまま後方に倒れ込み、強かに後頭部を床に打ち付けた。指先が僅かに喉に喰い込み、がぁんと派手な音が響く。

「――かはっ、」

 一瞬呼吸が出来なかったのか、息がどこにも行けなかったような音を出した。
 激しく咳き込む獄を余所に空却の手は獄が着ているシャツの胸より下の部分に触れた。シャツ越しに掌の熱を感じたのか獄の肌がぴく、と僅かに跳ねる。心臓は新鮮な血液を送り出そうと脈動を繰り返し、空却の掌を何度も押し上げる。空却の手は確かな意図を持って、シャツを勢いよく左右に大きく開いた。ボタンがぶちぶちと音を立てて飛んでいく。

「ふ、ざけんな、クソっ、マジでふざけやがって!」

 空却の手をでたらめに跳ね除けようとする獄の手を無視をした。タンクトップ越しに腹をゆるりと撫で、臍辺りを親指で引っ掻く。空却の手はべルトを抜き取り、後方に放った。下着諸共勢い良くずるんと引き摺り下ろされ下半身を顕にさせる。僅かに鎌首を擡げた陰茎を見て空却は鼻で笑ってやる。

「勃ってんじゃねぇか」

 せせら笑う声に獄は解りやすく不愉快そうに顔を歪めさせた。空却の指が獄の陰茎に絡み付く。やわやわと揉みしだいてやれば次第に硬く重たくなっていく。獄の折り曲げられた膝が空却の股座を押し上げた。空却は眉を顰めさせる。獄はそのまま膝をぐりぐりと押し付けさせ、嘲笑う。じわじわと熱が皮膚の下を這い回り、全身へと広がっていく。

「テメェこそ、こんなに硬くさせやがって」

 先に射精しては負けだと何者かに言われるような気がして歯を食いしばって刺激に耐える。空却は獄の肩を掴み、身体をぐるりと反転させた。肩甲骨の間を掌で抑え、背中に覆い被さった。赤みの指した貌の良い耳殻に歯を立てる。ぐぅ、と声とともにびくりと皮膚が跳ねたのを見て、空却は喉をくつくつと震わせた。ギラギラとした瞳が獲物をじっと見下ろす。

「そんなに煽んなよ」
「煽ってねぇわ、っ」

 空却は獄の指の付け根をそうっと撫でてやる。ひくりと獄の喉が震えた。獄の、ゴツゴツとした手は空却にとって嫌いではないものの一つだ。名残惜しそうに空却の手が離れる。空却はポケットからローションの小袋を取り出し、掌に開けた。指に纏わせるとひやりとしたローションに次第に体温が移っていく。ぬらぬらとてかる指先を、ひくついている窄まりに性急に押し付けさせた。

「ァ゛、あ、」

 獄の背筋がぐっと仰け反り、男らしい喉元を晒させた。勝手知ったるように空却は指を折り曲げ、臍側を刺激する。ある一点を掠めると同時に獄の脚がぎくんと跳ね、声を上げた。空却はそこを重点的に攻めながら獄の首筋に顔を寄せる。唇を押し付け、強く吸ってやる。加減が解らず、強すぎた為に赤く染まった箇所に紫の斑点が浮かんでいた。獄が両腕を丁度目の辺りで交差させた。腕で隠せなかった口から覗く赤い口腔が、粘り気のある唾液でぬらぬらと光を反射させている。それは酷く空却の脳髄に何かを訴えかけていた。

「ぉ゛おっ、っぐ、」
「声、我慢する必要ねぇだろ」

 空却が吐いた言葉は僅かに掠れていた。興奮のせいで荒くなる息を意識的に押し込め、平常通りの呼吸を繰り返す。喉が渇いた気がして飲み込んだ唾は空却の食道を躓きながらも降りていく。獄は空却の言葉に返事をする気配はない。空却が、獄のうっすらと赤色が滲む唇に舌先を這わせると、拒絶するようにふいと顔を背けた。端的に表して不快な感情が空却を爪で弾く。指の本数を増やし、拡張するような指使いをする。苦しそうな声が聞こえたが、やがてそれも内側で上手く快楽を拾って言っているのか輪郭をふやけさせていった。
 空却の指が窄まりに三本挿入るようになった頃、空却は一度窄まりから指を抜いた。獄の甘ったれたような声が空気を震わせる。獄の脚がだらりと脱力した。空却は意図的に息を吐いた。皮膚の内側で熱が蟲のように蠢いている。平常と異なるために気にはなるが、不快ではない。気分は殴り合いの喧嘩をしているときによく似てはいるが明らかに異なっている。空却は逸る気持ちを押さえつつ、前を寛がせた。まろび出た陰茎は赤黒く、膨れた亀頭から先走りを零し血管の浮いた幹を濡らしている。空却は亀頭を獄の窄まりに押し付けさせ、先走りを塗り付けるように動かす。くぱくぱと開閉を繰り返し亀頭に吸い付くような動きをする窄まりは、さながら求めているように見えた。口ばかりでは拒絶し嫌がる素振りを見せる癖に、情熱的に、動物的に、なりふり構わず欲しいと叫んでいる。そんなことある筈がないことを、空却はよく理解している。している筈だったのに、一度そう考えてしまえばもうそういう風にしか見られない。耳の側で血が勢い良く流れる音を聞いた。腰にぐっと力を籠めて進めば亀頭が窄まりに挿入り込み、奥を暴いていく。肉襞は空却の陰茎の皺一つひとつ丁寧に撫で摩り甘やかす。それは誰がどう見ても両手を上げて歓迎していた。

「――ぁ゛っ、ぐぅ゛……っ」
「っう、……相変わらず、良く締めンなぁ」

 喘ぐような呻くような声に混じってうるさいと言われた。言葉だけはどこまでも理性的であろうと努める獄の姿に、空却は自身の茹だっている脳髄に冷ややかな氷が落とされるような気持ちになる。
 身体を重ねることそのものは初めてではない。想いが通じ合っている恋人とも言えずお互いの利害の一致をしているセックスフレンドとも言えない、家族とそのまま当て嵌めるのもおかしい名前の無い関係だ。今の関係になってから知った原始的な快楽を、好いた人と触れ合うことの悦びを、空却の脳味噌は一つひとつ丁寧に、過剰に、嬉しそうに、無邪気に、拾い上げる。尤も、社会の規範であろうと努める目の前にいる男はそうでもなさそうだが。
 空却が何度か内側を擦り上げると獄は射精せずに達した。肉筒が空却の陰茎をきつく締め上げては甘やかし、媚びて精を強請る。獄は、口の端から垂れた唾液が皮膚を滑る刺激ですら感じるのか、ひくひくと肌を跳ねさせる。くそ、と獄が毒づいた。一回り以上年下の子供、獄の言葉を借りるなら庇護するべき対象に良いようにされているのが堪えられず、また自身の思う理想とかけ離れているのだろう。空却の中に失望はどこにもなかった。どこまでもただ、愛しさと側に置いておきたい感情だけが存在している。
 獄の身体を横向きにさせ、空却は獄の内腿に跨った。ぴたりと皮膚が重なり、一層奥を可愛がれる。少し乱暴に前立腺を突くように腰を動かせば腹がひくりと震える。獄に恋人がいたときにはさぞ使われていたのだろう、勃起した陰茎は時折情けなさそうに白濁を漏らして揺さぶりに合わせて上下に揺れる。

「ん゛、ぅっ、ンぐ、」

 獄は頑なに顔の前で腕を交差させていた。男でありながら尻穴を穿られて快楽を得ている事実などいつまで経っても屈辱でしかないのだろう。空却は獄の手首を掴んだ。ぐいと引くとあっさりと腕を退かせられる。獄は戸惑いながらも眩しそうに瞬きを何度か繰り返している。でたらめに指を絡ませ、それを無理に顔の横まで持っていって床に縫い付けた。獄の蕩けかけた目に反抗心が過りかける。眉間に見慣れた皺が寄せられた。奥を捏ねるように腰を押し付けさせるとくぐもった声が響く。空却は欲のまま揺さぶってしまいたいのをぐっと堪える。空却の短い髪先から汗が伝い落ち、獄の肌を濡らした。

「声なんざ我慢する必要ねェつったろ」
「っ誰が……!」

 涙の張った目が睨み付けた。血色が良くなっているせいか、皮膚に赤みが指している。空却は最奥を抉じ開けるようにぐりぐりと腰を回させる。獄の目が輪郭を曖昧にさせら、甘ったるい声を上げ、空却の陰茎を嬉しそうに締め付けさせる。
 空却は獄の唇に噛みつく。鈍い血の味が、渇きを訴える口腔内にじわりと広がった。

2024/04/27
空獄